2025. 02. 04
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MASCOS AGORA 初開催に寄せて。
社長の洪 昌督(こう しょうとく)です。
マスコスホテルは単なる宿泊施設にとどまらず、新しいカルチャーを発信する拠点となることを目指しています。その一環としてホテルのダイニングスペースを活用した様々なイベントを開催し、地域と共に文化を醸成していきたいと考えていました。しかし、コロナ禍や人手不足の影響で計画が停滞していたものの、昨年からようやく体制が整い、かねてから念願だった MASCOS AGORA を開催することができました。
「アゴラ(AGORA)」とは、古代ギリシャにおいて市民が集まり、意見を交わし、知識を共有する広場を意味します。この名前には、地域の多様な方々が集い、実際に会って意見を交わしながら街の未来を共に考えていきたいという想いが込められています。私は浅学ながらも10代の終わりからソクラテスやプラトンに魅了されており、彼らの「知性で社会を良くしていく姿勢」に強く惹かれて、この名前を選びました。スパルタのマッチョ精神への憧憬もあったりするのでかなり古代ギリシャ推しです(小野沢シネマさんで映画300をかけたいほど)。
MASCOS AGORA は毎回ゲストを招き、開催することを目指していますが、必ずしも毎回可能とは限りません。しかし、不定期でも継続していきたいと考えています。ゲストは私の独断で選びますが、「知性的で驕らず学びのある方」を基準としています。第1回目のゲストには北九州を拠点にクリエイターとして活躍されている 八木田一世さん をお迎えすることができ、大変有意義なスタートを切ることができました。八木田さんは、MBAで教鞭を執る学者的な知見と、ご自身で事業を展開する実践力を兼ね備えた方であり、その講義は素晴らしいものでした。あまりに素晴らしかったため、次回以降のゲスト選びが難しく感じられるほどです。しかし、人にはそれぞれ異なる魅力があるため、その点は気にしすぎず続けていきたいと思っています。
私は元々まちづくりには関心がなく、「UIターン」という言葉に対しても懐疑的でした。そんな中でデザイン会社「益田工房」を立ち上げ、さらに音楽活動に再び目覚めたことが、結果として地域活性化を軸とするホテルの開業に至りました。これらのすべては「人とのつながり」がきっかけであり、当初から街の当事者として強い意識を持っていたわけではありません。むしろ、出会った一人ひとりの影響によって、現在の形になったのです。
もし私のことを「成功者」と見る方がいるとすれば、それは誤解です。なぜなら、私は自分自身が「本来の自分を生きている」と言い切れないからです。私の根幹は表現活動であり、その中心には常に音楽があります。その信念は揺らぐことなく、経営者としての役割も時に違和感を伴うものでもあります。
新しい事業に挑むたびにあえて音楽作品を残してきたのも、「自分の中の自分を生き続けたい」という願いの表れです。それは時に、別の未来を歩む覚悟への自分への贈り物でもあったのかもしれません。贈り物が次のビジョンと踏み出す勇気を生み、それが結果的にホテルの開業に至ったと感じています。
現在、私はホテル経営に加え、アートディレクター、フォトグラファー、動画クリエイター、ブランディングプランナーなど多岐にわたる役割を担っています。これらの仕事の多くは、他者からの相談をきっかけに始まったものが、気がつけば仕事として確立したものです。
音楽を根幹に持つ私は、学生時代に映画制作にも没頭し、脚本を書いていました。そのため、文章を書くことに対して苦手意識はありません。映画は人間社会の断片を一つの物語として描くものであり、現在私が携わるすべての仕事がその要素を内包していると感じています。
映画制作の醍醐味は、チームで一つの作品を作り上げることです。監督がすべてをこなすわけではなく、カメラマンや音響技師の力を借りて、自分のビジョンを具現化していきます。この構造は、会社運営にも通じるものがあります。マスコスホテルの運営も映画制作のような感覚で進めており、少数精鋭の「益田工房」はバンドのようなイメージです。
そのため、規模の拡大や多店舗展開に大きな興味はありません。しかし、生き残るためにある程度の規模拡大が必要であれば、それも現実として受け止めています。
益田市では、私が戻ってきた15年の間に約5000人ほど人口が減少しました。つまりそれだけ商圏が小さくなってきているとも言えます。それだけで競争は激化するのですが、益田で起きている現象として私が最も危惧しているのは大手チェーンのフランチャイズ出店が増えていることです。これは一見経済発展として捉えられるかもしれませんが、それが成立するには本来人口増加が条件です。地元らしさを持つ個性的なお店が競争に巻き込まれて廃業に追い込まれるリスクが増えることにもなります。競争社会の中では仕方のないことなのかもしれませんが、地域の特色を出すことこそがその地域の魅力を演出できると考える私のような価値観の人間にとっては、やはりこれはなんとかしたいなと思うわけです。拡大主義者が闇雲に利益を追い求める結果、地域の素晴らしい財産を食い荒らしていることをそろそろすべての人が気付くべき時が来ているはずです。少なくとも賢明な益田市民は益田で起きているその危うさに気づくべきです。その上で、自分磨きを怠らない風土を作り上げることが地方で生き残るための生存戦略の一つだと私は考えます。