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マスコスホテルのこだわり①

 

社長の洪 昌督(こう しょうとく)です。

今回はマスコスホテルのこだわりの一つについて書きたいと思います。

その一つとは”材木”についてです。

本ウェブサイトの導入テキストにもありますが、私は開業時にクラフトホテルという別称をこのホテルにつけました。それは、マスコスホテルの建具や家具、食器、衣類が地域の職人さんたちの手によって一つ一つ丁寧にオリジナルデザインで作られたものであるからです。まともな経営者であれば、観光客もほとんど来ない片田舎に補助金も使わず外装や内装にお金をかけたシティホテルを建てるなどというタガの外れたことはしません。スタッフたちは気づいているはずですが、この場を借りて白状しておきます。私はまともな経営者ではありません。

コスパという言葉が近年流行語のようになっていますが、その意味では運営側目線では全くコスパは良くありません。

本物、そしてオリジナルデザインにこだわることは当然イニシャルコストがその分上がります。いえ、爆上がりします。

ではなぜそこに拘ったのか。

それはこれまでの出会いに起因します。

私は現在祖父が生前に建てた家で暮らしているのですが、その家は昭和の後半に建てられた木造で漆喰壁の日本家屋です。

その家は祖父が大借金をし、自ら材木の調達に出かけ、当時の大工さんに口うるさく注文をつけ、作業中も仕事を監視し続けるという半ば嫌がらせに近い執念で作ったこだわりの家です。そのことを嬉々として語る祖父に対して小さいながらに畏敬の念を抱きました。

やがて高校進学上京と、目まぐるしく自分を取り巻く状況が変わる中、とにかくモダンなものへと意識が向き、都会的で洗練された所謂お洒落なものにどっぷりと浸かる時期がありました。その意識の継続がやがてマスコスとは別に私がもう一つ代表を務める会社、デザインオフィス益田工房の創業に繋がるのですが、当時の私はとにかくなんでも最先端が好きでした。

益田工房という会社では私はアートディレクションと写真、映像制作を主な役割としています。その仕事を通じて地域の様々な方とお会いしました。その数々の出会いの中で今回のテーマと深く関わる方達というのは、木工職人や大工の方々です。彼らの材木へのある種異常な愛着を目の当たりにするたびに、毎回祖父の顔が浮かびました。そして彼らから天然木の素晴らしさを教えていただきました。木の種類、それぞれの木が持つ特有の性質、硬さ、木目の美しさ、希少性、産地、その他にも実に多くのことを。それと同時に、現代の建築物の多くに天然木が仕様されなくなってしまっていることを憂うお話も沢山伺いました。職人にとって本物の素材に触れる機会が減るということは、日本の高度な木工技術そのものが失われていくことを同時に意味します。一見無垢の木材に見えるものの多くが、化粧板と呼ばれるメラミン等の化学素材で作られた別物であり、まさにコスパがよく、水や汚れに強いといった優位性を持つため、建材の主役になっています。それを完全に否定するつもりはありません。近頃では低コスト住宅が流行っており、益田市内でも新築ラッシュが続いています。建材の進化のおかげでマイホームという幸せが手に届きやすくなったのであれば、それはそれできっと正しく、その家で家族と共に過ごす時間は幸せに違いないからです。

しかし、私のように祖父と職人さんたちから無垢材と職人技の素晴らしさを教わってその思想に傾倒した天然木原理主義者の人間にとってはそういうわけにはいきません。おまけにホテルという、小さな街にとっては景観を大いに左右する大型建築を立てるわけですから。何より地域のプライドをかけて建てるホテル(私が勝手にやっているだけですが)ですから、将来ヴィンテージホテルに成長させる為にも、本物の素材を使わないわけにはいきません。そして何より地域の職人さんたちの技術を存分に活かしたいという思いが強いわけです。そこにその地域特有の価値が生まれると信じています。地域を残す、文化を残すといった視点に立った時、価値のある素材と確かな技術に裏打ちされた本物にしか次世代に喜ばれる未来はないと考えています。

開業から5年近く経つ現在、栗の木をふんだんに使ったホテルの家具や建具が見事な経年変化を見せつつあります。材木への異常な愛情として、無垢材の持つ表情にこだわるあまり、材木の表面にはウレタンやニス等を塗布するなど、取り立てて特別な表面処理はしていません。そのため輪染みが残ることもありますが、人の顔に徐々に刻まれる皺やシミがその人の人生を物語るのと似た魅力を持つものと考えてるためです。仮に塗布するとしても天然由来の専用オイルのみにとどめています。白木の状態から徐々に飴色に変化を遂げた家具や木材の表情はなんとも言えない落ち着きを放ちます。その空間の中で過ごす時間は格別です。特に外光の入りやすいレストランスペースの経年変化がいい味を醸し出してきましたので写真をいくつか掲載しておきます。

 

マスコスホテルの家具は全て江津市のSUKIMONOさんによるものです。友人でもある職人のJUNさんに何度も無理を言って試作品を作っていただきました。

 

こちらもSUKIMONOさんが手がけたバーカウンター。JUNさんのこだわりが随所に光る傑作です。

 

いつの間にか輪じみがついた大テーブル。これも味わいの一つ。

 

余談ですが、私はShotoku Koh名義でシンガーソングライターとしても細々と活動しています。10年ほど前にフラッと立ち寄った東京の新大久保の中古楽器店でスペインのジプシー系ギター職人がハンドメイドで作ったスパニッシュギターに出会いました。ボディーに亀裂が入っており、内側に当て木で補修されている所謂傷物のため格安で販売されていたのですが、そのギターに使用されている材木はハカランダ(別名ブラジリアンローズウッド)という現在では大変希少性の高い高級木材で作られたギターです。先述した職人さんたちと同じく、その楽器屋の店員さんがハカランダについて熱く語ってくれたのが購入のきっかけです。

私は歌い手としての歴は長いのですが、ギターの腕はからっきしでした。しかし驚くことにこのギターを買ったのち急激にギターが上達しました!(相変わらず下手は下手ですが私にとっては完全に奇跡!)以前序文だけ読んだことのあるギターの教則本に、優れた楽器を持つことで演奏力も上達すると書かれていましたが、本当でした。

 

Juan Lopez Aguilarte氏によるスパニッシュギター。サイドとバックにハカランダを使用しています。

 

最後に、先日お亡くなりになられた、島根県吉賀町ご出身で初代グラントワセンター長であり、東京スカイツリーのデザイン監修をされた彫刻家の澄川喜一氏、私は澄川先生と呼ばせていただいておりますが、その澄川先生に私は何度もインタビュー映像を撮らせていただける大変な好機に恵まれました。数ある材木の中でも先生は欅が特にお気に召されているご様子でした。誰よりも木のことを熟知しておられ、単に彫刻の素材としてでなく、まるで大切なパートナーであるかのように木と向き合う姿勢が印象的でした。先生がご自身の作品の前で木について語られる際の優しい表情は同世代の私の祖父と重なるところがあり、勝手な親近感を抱いていたため、もうお会いできないのかと思うと淋しいのですが、芸術家としての功績だけでなく、決して偉ぶることなく誰にでも分け隔てなく接せられるそのお人柄といい、大変多くのことを学ばせていただいた澄川喜一先生との出会いに感謝の念しかありません。心よりご冥福をお祈りいたします。

今回は材木をテーマに綴りましたが、職人さんとの出会いによるエピソードは枚挙にいとまがないため、またどこかのタイミングで書きたいと思います。 

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