OWNER'S BLOG

社長ブログはじめました。

はじめまして。株式会社マスコス代表取締役社長の洪 昌督(こう しょうとく)です。

この度マスコスホテルの公式サイトで、社長である私のブログページを設けました。

私は本来自らを露出したいタイプの経営者ではなく、それ故なるべく外に向けての発信を控えていたのですが、
地方で事業を続けていく上で、経営者自らが内外に対して生の声を発信し伝えることの重要性を今更ながら感じており、会社はもとより地域にとってもプラスとなるような記事をこれから発信していければと思っています。

記念すべき第1回目の投稿は、明るいお知らせとして、人口減少と若者流出で地元採用が年々厳しさを増す中、
ありがたいことに、マスコスホテルでは今年3名の新規採用がありました。
それに伴い、恥を忍んで私の入社式でのスピーチの全文も掲載することにしました。

初々しさ溢れる若者達とこれから一緒に働けるのが楽しみな今日この頃です。

 

入社式スピーチ全文

新入社員の皆さん、この度は入社おめでとうございます。

社長の洪昌督です。皆さんがこれから勤めるマスコスホテルは、私が悩みに悩み、考えに考え抜いて作ったホテルです。つまり私という人間の考えを理解してもらわないことには、その存在意義を真に理解することのできないホテルです。ですので、今日のこの時間を借りて新入社員の皆さんにできる限り多くのことを伝えたいと思い、なるべく伝え漏らすことのないように、今日はあらかじめ用意した原稿を読み上げることにしました。これは何を意味するのかというと、話が長くなるということです。せっかく学校の校長先生のつまらない長話から解放されたと思っているかもしれませんが、人生そう都合良くはいきません。ただ、これから私が皆さんに伝えることは、皆さんにとっても会社にとっても大切なことですので集中して聞いてください。スティーブジョブズがスタンフォード大学の卒業式で話したスピーチが15分ほどです。なるべく15分で話終えられたらと思います。

マズローの五段階欲求という理論を聞いたことがありますか。最初にこの説について少し時間を割かせてください。マズローとは1970年代まで生きたアメリカの心理学者の名前で、この人が人間の欲求を階層別に五段階に分けて理論化したものです。

頭の中に三角のピラミッドを思い描いてみてください。

人間が最初に求める最下層である第一階層の欲求は生理的欲求を意味します。「食欲」や「睡眠欲」のことです。第二階層は「安全欲求」で安心・安全な暮らしを求める状態を指します。第三階層は「社会的欲求」友人や家族、会社から受け入れられたい欲求を指します。続いて第四階層の「承認欲求」、他者から尊敬されたい、認められたい、出世したいという欲求を指します。そして最後の第五階層「自己実現欲求」自分の世界観・人生観に基づいて「あるべき自分」になりたいという欲求を指します。

実はその先があるのですが、それは「自己超越」です。

現代では多くの人が第四段階の「承認欲求」を抱えながら日々生活をしています。それはSNSが物語っています。そしてそのことで、時に喜び時に苦しみもがいています。

私についての話に戻ります。私は経営者であると同時に芸術や創作を志す者として少なからぬ時間を割いて生きてきました。私は現在も音楽活動を行い、もう一つ経営する会社、株式会社益田工房というデザイン会社でデザイン制作や写真撮影、映像制作といった仕事を様々なクライアントから依頼を受け日々こなしています。人は皆多面的な生き物ですが、私ももれなくその中の一員です。そしておそらく一般的なそれよりも私はその特性が強いかもしれません。敢えて最も自然な状態で素の自分を定義づけるとするならば、私は音楽家です。そうなると、皆さんがこれから勤めるマスコスホテルは音楽家が作ったホテルであると言えます。

音楽家を抽象化すると、表現者やクリエイターと言い換えることもできます。そうなると今度は、マスコスホテルは私の表現作品と捉えることもできます。そして作品には作家の思想や感性が詰まっています。

ここでもう一度、マズローの五段階欲求の話に戻ります。私が芸術作品としてマスコスホテルを作ったのであるとするならば、第四階層の「承認欲求」そして第五階層の「自己実現」が当てはまるかもしれません。しかし実はそうではありません。では階層を少し下に下げてみます。第三階層の、社会から受け入れられたいとする「社会的欲求」、第二階層の「安全欲求」、第一階層の「生理的欲求」、実はこの三階層は皆さんの生活を支えるために必ず実現しなければならない最も基本的で大切な階層です。しかしながら会社経営はこの三つを実現することすらままならないほど非常に困難な行いです。毎年実に多くの会社が世の中に誕生しては消滅して行きますが、その過酷さははっきりと統計に表れています。まず創業して3年で35%の会社が姿を消します。10年経つとその数は急激に延び、実に93.7%が姿を消します。私が創業した益田工房という会社は13年が経とうしており、幸運にも生き残りの6.3%の中に入っています。そしてそこから更に時間が経過して、30年後に生き残る会社というのは全体の0.025%に過ぎません。会長が創業したマスコスの前身である洪商事は今から40年前に作られました。そしてマスコスホテルを建設するタイミングで株式会社マスコスという社名に変更して今に至ります。つまり皆さんは全体の0.025%より更に低い数値の中で生き残った会社に就職されたということになります。これは驚くべきことです。賞賛に値するかもしれません。こう聞くと順風満帆なイメージを抱くかもしれませんが、現状は決して楽ではありません。会社を継続させることはそれほど困難なことなのです。社会人になる皆さんにはまず初めにこの現実を知っておいていただきたいのです。

マスコスという名前を命名したのは他でもないこの私です。そこには益田を超えるという意味が込められています。すなわちそれは超越を意味します。五段階欲求のその先です。それは目的を遂行するために自我を捨てる境地に至ることでもあります。私はこの益田の地で10年以上、経営者や表現者である前に一人の人間として、承認欲求や自己実現のはざまで戦ってきました。しかしある時気がついたのです。そこに大した意味はないということを。そこに囚われるとするならば、私はいつ死んでもいいと言える人生を歩んできました。表現活動においてはそのように毎回覚悟を決めて自分の内面と自分の持つ才能に向き合って生きてきたからです。しかしそれはあくまで個人という枠に囚われた小さな人間の思考に過ぎません。

株式会社マスコスが運営するマスコスホテルは会社の名前がそのままホテルの名前になっています。冒頭に、ホテルを理解するということは私を理解することに繋がると述べましたが、マスコスホテルは、私というエゴが極限まで削り抜かれて完成されたホテルです。つまりは、私の承認欲求や自己実現のために作られたものでは決してないということです。マスコスホテルはこの益田の地に生きる人々、そしてこの地に訪れる人々のために作られたものです。ホテルのコンセプトについては別に時間を割いて話をしたいと思います。

最後に、新入社員の皆さんに私の好きな言葉を一つ選んで伝えたいと思います。私は少ない読書経験の中でも古典文学や古典哲学から人生のエッセンスを取り入れてきた人間の一人です。そしてそれは今なお日々継続しています。西洋哲学の父と呼ばれるソクラテスは「無知の知」という考えをもとに思考を深めた人です。つまり、自分が無知であるということを知ることが重要であるという考えです。そして言葉としては「無知は罪なり、知は空虚なり、英知を持つもの英雄なり」という言葉を残しています。簡単に補足すると、無知でいることは許されないことであり、それは人として無責任であることを意味します。知は空虚なりといういうのは、知識を蓄えそれをひけらかすだけなら意味がない、それどころか鼻持ちならない嫌味な奴ということになります。最後の、英知を持つもの英雄なりというのは、得た知識や情報を実践して世の中の役にたてましょうという意味です。私は益田の地で私なりにこれを実践してきたつもりです。私が38歳の時に建てたマスコスホテルは38年間の私の人生経験の中で、私なりの知を最大限活かしたものです。

新入社員の皆さんの人生は始まったばかりです。その状態は美しくもあり無知そのものであるとも言えます。私が皆さんに強く求めたいことは、仕事で経験することとは別に、プライベートな時間の中で、教養と感性を磨くことを怠らないで欲しいということです。10代後半から20代の若さ溢れる特別な時間だけは取り戻すことはできません。この時期に頑張った人だけが見ることのできる景色というものが確実に存在します。確かに人は変わることができます。私は立派に変わった人達を見てきました。いつからでも再スタートは切ることができます。ですので20代を棒に振っても生きていけないわけではありません。それは紛れもない事実です。全ては意識の問題です。私は私なりに20代を全力疾走しました。そんな私も自分の無知が恥ずかしいと日々思いながら生きています。私のような人間が経営者でいることをおこがましいとさえ日々思いながら生きています。私には権力欲はほとんどありません。権力の話をすると更に話が長くなるのでこの辺にしておきます。私を突き動かすのは責任感と使命感です。私がもし学ぶことをやめたとしたら、私はその時点で、経営者はおろか、大人でいることをやめたことになります。

ですのでそんな私は、皆さんにも知の実践を期待します。次の世代に責任を持つことを喜びとする大人にどうか育ってください。それが社会をより良い方向に導くことに繋がると信じています。

長くなりましたが、これで私からの挨拶とさせていただきます。改めて、新入社員の皆さん、株式会社マスコスへの入社おめでとうございます。

2023年4月7日 株式会社マスコス 代表取締役社長 洪 昌督

 

 

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